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〒862-0954
熊本市神水2丁目13番34号
TEL 096-381-2456
FAX 096-381-2458

kodawari@kumamoto-piano.com
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 4年程前、沙織さんと言う20代の若い女性から、「約30年前に買ってもらったグランドピアノです。一度水害に被った上、この10年近くは納屋や物置に放置されたままの状態ですが、まだ使えるようになるのか見て欲しい」とのご依頼を受けました。伺ってみますと確かに予想以上に劣悪な状態です。でも、手を加えればまだまだ充分使用できます。
 お話を伺ってみますと、このピアノはお姉さんがピアノを習い始めた頃、両親がせっかくならと当時アップライトピアノの倍以上の値段がしたグランドピアノを買い与えてくれたものだそうです。
 私は両親のその見識と愛情に大いに敬服致しました。しかしながらそのお母様も、沙織さんがまだ2歳の時、病気で亡くなられたとのこと。形見とも言えるお母さんの想いが詰まったグランドピアノ。にもかかわらず、その後お姉さんは結婚、沙織さんも大学進学、就職と実家を離れてしまい、いつしかピアノは納屋に放置されていました。見かねたお姉様が引き取ったもののそこもやはり物置です。
 このままでは「悲劇のピアノ」になってしまう、と思った沙織さんは、何とかこのピアノに息吹きを与え、6畳一間しかないけど自分の部屋で引き取りたい、との想いからのものでした。
 大がかりな修理やクリーニング、調律・調整を施した後、アパートの一室でもあることから消音機能を取り付けることにしました。そしてやっとの思いで搬入した沙織さんの部屋は、奥行き180数センチあるグランドピアノ以外何も置けない状態です。幸いロフト付きの部屋のため、ベッドは確保できているものの弾くのさえちょっと窮屈そうです。しかしながら、これで沙織さんは“殆ど記憶に無いお母さん”と一緒に生活できる喜びを感じました。 
 殆どヘッドホンでの使用が多い現在、いつかきっと広い部屋で、大きく蓋を開けて思いっきり生の音で弾いてあげたいと思っているそうです。

 そして昨年の父の日、沙織さんはコンサートホールを半日借り切って「お父さんだけのためのコンサート」を計画しました。何百回もCDを聴いて丸暗記した、とおっしゃる超難曲「ラ・カンパネラ」も何とか様になり、いよいよ当日を迎えました。ところが、肝心のお父さんがすっかり失念していてお友達と釣りに出かけてしまったのです。ビックリさせようとの思いから念押しをしなかったことを悔やみながら、寂しく一人ぼっちホールのピアノで練習したそうです・・・・。
 でも、きっとお母様は聴いておられたかもしれませんね。
 「もっとレパートリーを増やして、来年もう一度計画したい。」と語ってくれました。
 ピアノって本当にいいもんだなぁ、と改めて実感致しました。
 その後も、定期的にメンテナンスのご依頼をいただき、とても大切にされています。
 とある日曜日、ピアノ店である当店にはちょっと不似合いの格好をした、20歳前後の見た目イケメンの青年が物静かに入って来ました。着古した感じのジージャンの上下にブーツ。イヤリング、指輪、チェーンのアクセサリーどう見てもロックミュージシャン風。戸惑いつ「いらっしゃいませ」と声を掛けますと、やおら「ピアノを弾かせていただいていいですか」と。展示のアップライトピアノに向かい、弾き出したのは映画「戦場のピアニスト」で一躍有名になったあのショパンの“ノクターン第20番嬰ハ短調・遺作”。
ビックリです。更に次々とショパンが続きます。けっして巧いとは言い難いのですが、何とも言えない「雰囲気」を感じさせます。
 僕は彼にたいへん興味を抱き、一息ついた後いろいろな話をさせていただきました。実は楽譜は全く読めなくて、耳コピーだとのこと。最近やっと正式に先生につきだしたと言うのです。そして彼曰く「ディアパソンが欲しくて来ました。」と2時間ほどかかる水俣からわざわざ来たと言うことで、もう感激!です。今度はグランドピアノに向かいます。やはりショパンです。「やっぱりグランドはいいですね」。とすっかりその気の様子。
それから数日後、僕の留守中に今度はお母様を伴って来店、本当にディアパソンのグランドピアノを契約して帰られました。

 お母様によりますと、彼は中学時代「体操」の優秀な生徒で高校進学は指導者の先生を慕って県外の強豪校へ進んだものの腰を痛めて挫折、僅か数ヶ月で退学してしまい、その後は何もかもやる気を失い、一日中ゲームばっかりの無気力で篭った状態が続いていたそうです。そんな折、友人から「お前は“戦場のピアニスト”に似ている」と言われ、ビデオを見てピアノに興味を待ったとのことです。当初、また投げ出すだろうと量販店で買った1万円のキーボード(納品時、確かにありました)を与え、自分とお姉さんの二人掛かりでドの位置から教え始めたとのこと。

 このようなことが契機となったのか、生活ぶりも徐々に改善され始め、その頃からお父様が経営される病院の介護施設で、ヘルパー兼運転手として手伝ってくれるようになったそうです。ピアノを楽しむことで、以前のような前向きな彼に立ち直ってくれればとの思いからピアノを買ってあげることを決心されたそうです。
そんな中の来店でした。その際、僕の強い勧めで出場することとなった地元主催の「さいたピアノコンクール、一般の部(趣味として楽しんでいる人対象)」へ出場すると言う思いもよらない出来事は一段とピアノに向かわせることとなりました。

 そして見事予選を勝ち抜き本選へと進んだ彼は、関係者からたいへんな注目の存在となりました。本選特別審査員として参加されているピアニストの有森博氏は「彼は独特の自分の世界と雰囲気をもっているね」と寸評されたそうです。ちなみに当日の演奏曲は、ショパンの“ワルツ第7番”でした。

 現在彼は、音楽大学への進学を目指し、そのための資格を得るためこの4月から仕事と並行して定時制高校へ通い始めたそうです。
 彼の人生の転機となったピアノ。そのきっかけを作ってくれた友人の一言。
 今後も彼を見守って行きたいと思っています。

 尚、今回も本選出場を果たしました。本番は来年1月です。演奏曲はやはりショパンの“ノクターン13番ハ短調op.48-1”。難曲だそうです。

納入メモ
2階の彼の部屋への搬入はたいへんな作業でした。
途中さすがの運送屋さんも諦めかけたのですが、彼の強い思いは可能にしてしまいました。
据付が終わった後、満足げに弾き始めた彼の顔が忘れられません。

 
 ピアノにはたくさんの思い出がしみ込むものです。関わり方が多ければ多いほど・・・
 現在ピアノのおけいこに通っておられる生徒さんのお家のピアノは、そのお母様やお父様が使っていたピアノだと言うご家庭が少なくないでしょう。
 以前、コンクールに入賞する程の優秀な中学生のご家庭で、アップライトピアノからボストン[GP178EP]のグランドピアノに買い替えられたお客様のことです。

 運送屋さんの手で、真新しいグランドピアノが開梱されていく過程では子供さんもお母様も嬉しさのあまり歓声をあげながら興奮ぎみでした。グランドピアノがお部屋に設置され、いよいよアップライトを引き取るためトラックに載せようとしたとたん、お二人は今までお世話になったそのピアノにそっと手を触れて涙されました。そのピアノはお母様が使っていたピアノで、その後引き続きお子さんが今まで毎日弾いていたピアノでした。さまざまな思い出がしみ込んだピアノで、手放すのがさぞかし辛かったのでしょう。ちなみにそのピアノは我々の手によってきれいにリニューアルされ、新しい家族のもとで可愛がられ今でも活躍しています。

 ピアノはまさに家族の一員です。しっかり対話《おけいこ》し健康チェック《定期的な調律》してあげれば、親子2代と言わずそれ以上でも使えます。関わり方が薄ければ、思い出どころか邪魔にさえ感じてしまうものです。むろんそのピアノにお金をかけて、調律、調整などする気も起きないでしょう。そんな言わば不遇なピアノが巷に多いのも事実です。

 ピアノを購入する際、どのメーカーで、どれ位のランクのものを選んだらいいのか、随分と悩まれることでしょう。しかしながら大切なことは、別にも申し上げました通りそのピアノを活かすことでしょう。50万円で購入したピアノが活かし方次第では何倍もの価値観を見い出すことになるでしょう。またその逆もあり得ます。

 けっしてピアノに寂しい思いだけはさせないで欲しいものです。

♪その後のお嬢さん・・・
その後、このお嬢さんは音楽大学へと進み、卒業後私の強いラブコールによって当社アカデミア音楽教室のピアノ講師として現在活躍中です。
 
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