|
|
| トップに戻る |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
熊本に住んだ僅か1年2ヶ月、強烈なインパクトを与えて帰京した青年のお話です。
新年も明けた1月初旬の土曜日、厳しい寒さの中自転車をこいで、芸能人顔負けの見るからに男前のTさんが、事前に予約していた当店ソナチネルームにピアノを借りにやって来ました。程なく、その部屋からは今迄聞こえてきたことがない前衛的なピアノの音がします。次から次と理解に苦しむような難しい曲ばかり、果たして楽譜なる物は存在するのかなぁと覗いて見ますと、何とも見るからに難解で、5線から上にも下にも音符がいっぱいはみ出しています^^v
その内聞こえて来たのは、西村朗氏作曲の「オパール光のソナタ」=当HPお勧めCDコーナーで紹介中。最後は僕も親交がある加古隆氏作曲の「黄昏のワルツ」=NHKにんげんドキュメントのテーマ曲。この曲だけは全く趣が違って実に美しいメロディです。たっぷり2時間練習した後、明日も2時間の予約、更には殆ど毎日仕事を終えてタクシーで駆けつけました。
ある日、ゆっくりとお話をする時間があって伺ったところによりますと、次の土曜日某所で、ソロ・リサイタル(オリジナル作品も披露予定とか)が開催され、そのための練習であること。練習し過ぎて自宅(寮)の電子ピアノが壊れてしまったこと(なるほど納得です!)等話してくれました。また大学卒業間際に記念にと出場したとあるピアノコンクールでは、その殆んどが音大生と言う中で、入賞こそ逃したもののファイナリストに選ばれたそうです。「確かに現代曲やフランス近代物も好きですが、小さい頃のレッスンではバッハと古典派ばかり弾いていた」とのこと。その後のコンクールやオーディションではメシアン〈そう言えば加古隆さんはメシアン氏の愛弟子でしたね。Tさんが加古作品を選んだことと関係あるのかなぁ?〉やショパン、ブラームス等幅広く手がけて来たそうです。
「想像ですが、あなたは相当の高学歴で有名企業、たぶん金融証券関係にお勤めなのではないですか」と尋ねますと笑いながら頭を掻いていました。
そして本番当日もやって来ました。約1時間指ならしをして「お世話になりました。行って来ます!」と会場に向ったのです。僕はその後来客の予定があったので伺えませんでしたが「あの黄昏のワルツはアンコール曲なのかなぁ」と勝手にピアノに向かう彼の姿を想像したりしておりました。
そして数時間後、リサイタルを終えた彼は手土産としてスイーツを提げて戻って来ました。使用料をおまけしたお礼なのでしょうか、律儀さに恐れ入ります。そして「この1週間ありがとうございました。自己紹介させていただきます」と手渡された名刺を見てビックリ!僕の想像を超えた公的機関に勤務する、将来を嘱望されたキャリアです。 出身大学は早稲田。リサイタルを終えた安堵からか、いろいろと話を聞かせてくれました。将来音楽の道を目指そうかどうしようか悩んだ時期もあったとか。途中思わぬ事故で左手薬指の腱を痛めて手術、生活には支障がない程回復したものの、ピアノが思うように弾けないとの理由から再手術したこと等を語ってくれました。彼ならではのピアノに対する熱い想いがそうさせたのでしょう。
二人はピアノ談義からいつしか金融、経済に話題が発展、語り合いました。自分の息子より年下とはとても思えない、しっかりした考えを持つ実に凜とした青年です。
その後も、新しいピアノが入荷したら試弾に来ては、貴重な意見や感想を寄せてくれ、二人は交流を深めて行きました。
そして同年8月初め、僕に強烈な印象を残したまま熊本での任務を終え、帰京したのです。
(熊本を離れる前日、挨拶に訪れた彼に熊本における最後の1曲をおねだりしました。居合わせたレッスン生の女の子は、彼のダイナミックな演奏に唖然としながらも聴き入っておりました。)
この後、本部に配属され、海外留学や海外赴任の可能性もあるとか・・・。何処に行ってもピアノだけは弾き続けることでしょう。帰京後は取り敢えずグランドピアノをリースしようかと考えているそうです。そして、近い内に1度は大きなピアノコンクールで入賞を果たしたいとも・・・・
「再び熊本に戻れる可能性は皆無とは言えなくもかなり低いですね」と謙遜しながらも、初めての地方赴任地熊本、次は偉くなって戻って来られることを待ち望んでいます。
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
4年程前、沙織さんと言う20代の若い女性から、「約30年前に買ってもらったグランドピアノです。一度水害に被った上、この10年近くは納屋や物置に放置されたままの状態ですが、まだ使えるようになるのか見て欲しい」とのご依頼を受けました。伺ってみますと確かに予想以上に劣悪な状態です。でも、手を加えればまだまだ充分使用できます。
お話を伺ってみますと、このピアノはお姉さんがピアノを習い始めた頃、両親がせっかくならと当時アップライトピアノの倍以上の値段がしたグランドピアノを買い与えてくれたものだそうです。
私は両親のその見識と愛情に大いに敬服致しました。しかしながらそのお母様も、沙織さんがまだ2歳の時、病気で亡くなられたとのこと。形見とも言えるお母さんの想いが詰まったグランドピアノ。にもかかわらず、その後お姉さんは結婚、沙織さんも大学進学、就職と実家を離れてしまい、いつしかピアノは納屋に放置されていました。見かねたお姉様が引き取ったもののそこもやはり物置です。
このままでは「悲劇のピアノ」になってしまう、と思った沙織さんは、何とかこのピアノに息吹きを与え、6畳一間しかないけど自分の部屋で引き取りたい、との想いからのものでした。
大がかりな修理やクリーニング、調律・調整を施した後、アパートの一室でもあることから消音機能を取り付けることにしました。そしてやっとの思いで搬入した沙織さんの部屋は、奥行き180数センチあるグランドピアノ以外何も置けない状態です。幸いロフト付きの部屋のため、ベッドは確保できているものの弾くのさえちょっと窮屈そうです。しかしながら、これで沙織さんは“殆ど記憶に無いお母さん”と一緒に生活できる喜びを感じました。
殆どヘッドホンでの使用が多い現在、いつかきっと広い部屋で、大きく蓋を開けて思いっきり生の音で弾いてあげたいと思っているそうです。
そして昨年の父の日、沙織さんはコンサートホールを半日借り切って「お父さんだけのためのコンサート」を計画しました。何百回もCDを聴いて丸暗記した、とおっしゃる超難曲「ラ・カンパネラ」も何とか様になり、いよいよ当日を迎えました。ところが、肝心のお父さんがすっかり失念していてお友達と釣りに出かけてしまったのです。ビックリさせようとの思いから念押しをしなかったことを悔やみながら、寂しく一人ぼっちホールのピアノで練習したそうです・・・・。
でも、きっとお母様は聴いておられたかもしれませんね。
「もっとレパートリーを増やして、来年もう一度計画したい。」と語ってくれました。
ピアノって本当にいいもんだなぁ、と改めて実感致しました。
その後も、定期的にメンテナンスのご依頼をいただき、とても大切にされています。
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
とある日曜日、ピアノ店である当店にはちょっと不似合いの格好をした、20歳前後の見た目イケメンの青年が物静かに入って来ました。着古した感じのジージャンの上下にブーツ。イヤリング、指輪、チェーンのアクセサリーどう見てもロックミュージシャン風。戸惑いつ「いらっしゃいませ」と声を掛けますと、やおら「ピアノを弾かせていただいていいですか」と。展示のアップライトピアノに向かい、弾き出したのは映画「戦場のピアニスト」で一躍有名になったあのショパンの“ノクターン第20番嬰ハ短調・遺作”。
ビックリです。更に次々とショパンが続きます。けっして巧いとは言い難いのですが、何とも言えない「雰囲気」を感じさせます。
僕は彼にたいへん興味を抱き、一息ついた後いろいろな話をさせていただきました。実は楽譜は全く読めなくて、耳コピーだとのこと。最近やっと正式に先生につきだしたと言うのです。そして彼曰く「ディアパソンが欲しくて来ました。」と2時間ほどかかる水俣からわざわざ来たと言うことで、もう感激!です。今度はグランドピアノに向かいます。やはりショパンです。「やっぱりグランドはいいですね」。とすっかりその気の様子。
それから数日後、僕の留守中に今度はお母様を伴って来店、本当にディアパソンのグランドピアノを契約して帰られました。
お母様によりますと、彼は中学時代「体操」の優秀な生徒で高校進学は指導者の先生を慕って県外の強豪校へ進んだものの腰を痛めて挫折、僅か数ヶ月で退学してしまい、その後は何もかもやる気を失い、一日中ゲームばっかりの無気力で篭った状態が続いていたそうです。そんな折、友人から「お前は“戦場のピアニスト”に似ている」と言われ、ビデオを見てピアノに興味を待ったとのことです。当初、また投げ出すだろうと量販店で買った1万円のキーボード(納品時、確かにありました)を与え、自分とお姉さんの二人掛かりでドの位置から教え始めたとのこと。
このようなことが契機となったのか、生活ぶりも徐々に改善され始め、その頃からお父様が経営される病院の介護施設で、ヘルパー兼運転手として手伝ってくれるようになったそうです。ピアノを楽しむことで、以前のような前向きな彼に立ち直ってくれればとの思いからピアノを買ってあげることを決心されたそうです。
そんな中の来店でした。その際、僕の強い勧めで出場することとなった地元主催の「さいたピアノコンクール、一般の部(趣味として楽しんでいる人対象)」へ出場すると言う思いもよらない出来事は一段とピアノに向かわせることとなりました。
そして見事予選を勝ち抜き本選へと進んだ彼は、関係者からたいへんな注目の存在となりました。本選特別審査員として参加されているピアニストの有森博氏は「彼は独特の自分の世界と雰囲気をもっているね」と寸評されたそうです。ちなみに当日の演奏曲は、ショパンの“ワルツ第7番”でした。
現在彼は、音楽大学への進学を目指し、そのための資格を得るためこの4月から仕事と並行して定時制高校へ通い始めたそうです。
彼の人生の転機となったピアノ。そのきっかけを作ってくれた友人の一言。
今後も彼を見守って行きたいと思っています。
尚、今回も本選出場を果たしました。本番は来年1月です。演奏曲はやはりショパンの“ノクターン13番ハ短調op.48-1”。難曲だそうです。
| 納入メモ |
2階の彼の部屋への搬入はたいへんな作業でした。
途中さすがの運送屋さんも諦めかけたのですが、彼の強い思いは可能にしてしまいました。
据付が終わった後、満足げに弾き始めた彼の顔が忘れられません。 |
|
|
 |
 |
 |
 |
|
| |
 |
 |
 |
 |
ピアノにはたくさんの思い出がしみ込むものです。関わり方が多ければ多いほど・・・
現在ピアノのおけいこに通っておられる生徒さんのお家のピアノは、そのお母様やお父様が使っていたピアノだと言うご家庭が少なくないでしょう。
以前、コンクールに入賞する程の優秀な中学生のご家庭で、アップライトピアノからボストン[GP178EP]のグランドピアノに買い替えられたお客様のことです。
運送屋さんの手で、真新しいグランドピアノが開梱されていく過程では子供さんもお母様も嬉しさのあまり歓声をあげながら興奮ぎみでした。グランドピアノがお部屋に設置され、いよいよアップライトを引き取るためトラックに載せようとしたとたん、お二人は今までお世話になったそのピアノにそっと手を触れて涙されました。そのピアノはお母様が使っていたピアノで、その後引き続きお子さんが今まで毎日弾いていたピアノでした。さまざまな思い出がしみ込んだピアノで、手放すのがさぞかし辛かったのでしょう。ちなみにそのピアノは我々の手によってきれいにリニューアルされ、新しい家族のもとで可愛がられ今でも活躍しています。
ピアノはまさに家族の一員です。しっかり対話《おけいこ》し健康チェック《定期的な調律》してあげれば、親子2代と言わずそれ以上でも使えます。関わり方が薄ければ、思い出どころか邪魔にさえ感じてしまうものです。むろんそのピアノにお金をかけて、調律、調整などする気も起きないでしょう。そんな言わば不遇なピアノが巷に多いのも事実です。
ピアノを購入する際、どのメーカーで、どれ位のランクのものを選んだらいいのか、随分と悩まれることでしょう。しかしながら大切なことは、別にも申し上げました通りそのピアノを活かすことでしょう。50万円で購入したピアノが活かし方次第では何倍もの価値観を見い出すことになるでしょう。またその逆もあり得ます。
けっしてピアノに寂しい思いだけはさせないで欲しいものです。
♪その後のお嬢さん・・・
その後、このお嬢さんは音楽大学へと進み、卒業後私の強いラブコールによって当社アカデミア音楽教室のピアノ講師として現在活躍中です。
|
 |
 |
 |
 |
|
| |
 |
くまもとピアノ 〒862-0954 熊本市神水2丁目13番34号
TEL096-381-2456 FAX096-381-2458 |
| |
|